嬬恋の土はなぜ黒い? どうして役立たずの「のぼう土」と言われたのか。

希に見る黒ボク土は世界でも貴重な優良土と言われるが・・・


◆ 火山灰土は農業を受け入れず。
農家のキャベツ畑の土はまっ黒だ。どこでもみんなまっ黒だ。
子どものときから見ているから土は黒いものだと思っている。そしてこの土を古くから「のぼう土」と呼んできた。〈でくのぼう〉の語源からきているから当然見かけ倒しの役立たずの土のことらしい。はっきり区別され役立たず物と言われた「のぼう土地帯」が、今は高原野菜の適地になって最大の恩恵を受けているので「のぼう土」の印象は180度変わった。農家が努力したからだけではない。そこには戦後の土壌学と肥料改良剤の成果が大きく係わっていたことが、つい最近のことだと知る人も少なく残念な気がする。


◆ のぼう土とは火山が作った土「黒ボク土」のこと。
日本は火山国だから何度も火山灰が降り注いでいて、特に多量の火山灰が堆積したエリアに「黒ボク土」が生成している。(地図参照) 黒ボク土は国土の16%を占め、日本の普通畑の40%あると言われているが、戦後に訪れたアメリカの土壌調査団の学者たちはこの土に驚いた、米国には無かった土だから。この黒ボクは世界でもなんと1%ほどしかないというのが定説だ。しかもその黒く、暗い土を称してアンド(暗土)ソル「Andosols」が国際的な土壌ネームになっているのだ。

←写真は黒ボク土の分布図

◆ 黒ボク土は世界でも希な不良土だった!
黒ボクは非常に軽く、柔らかくて、しかもその物理性が深い層まで均一になっているという優れた特徴があるにもかかわらず、ススキやササなど一部の適応できる植物しか生育しない土地でした。火山灰ゆえの化学性に問題があったのです。この土地を開墾する試みは明治から大正にかけて行われましたが、ほとんど失敗したため農業界の〈問題児〉扱いされてノハイとかノッペ、ボク、ノボウなどと呼ばれて他の土地と差別(区別)を受けてきました。
黒ボク地帯の開拓が進んだのは戦後です。食糧増産や満州引揚者対策が迫るなか、実用的な研究が進み、一方で過リン酸石灰や溶成リン肥などのリン酸肥料の生産、供給がはじまり改善策が見つかって黒ボクの改良がいっきに進んでいきました。嬬恋に大転機が訪れたのはこの時からです。不良土が世界でも優れた土に変貌していき大規模農業地帯の出現に至ったのです。


◆ 希な黒ボクの化学性
話を戻しますが、嬬恋の黒ボク土はなぜ黒くて厚い層が出来ているのか。
土壌のことについては詳しくないので、土壌学上分かっていることを引用してみます。
黒ボク土がまっ黒な色をしているのは、土壌の中に有機物が腐植として多量に蓄積しているためで、黒ボク土は、日本の他の土壌に比べて腐植含量がきわめて高く、世界中の土壌の中でもトップにある、と認められていますが、この腐植が黒ボクのアルミニウムと結合するために、自然状態では分解されないから徐々に堆積して層を厚くしてきた、というのです。それは、黒ボク土に多く含まれている活性アルミニウムと粘土のアロフェンは、リン酸との結合力がきわめて強くて、ひとたび結合したリン酸を容易に離さない。土壌は一般にリン酸と結合するが、黒ボク土の場合は他の土壌と比べて強く結合している。このため、黒ボク土では植物がリン酸欠乏になって生育がきわめて悪くなるという化学的特性が分かりました。つまり分解されにくいから堆積し、分解されにくいから作物の栄養にもならない特性があった、という事なのです。一般的には腐植は分解されやすいのに黒ボク土の場合は、この分解されやすい物質が分解されにくい、というのが最大の特徴でこれが世界でも希な土壌の改良を阻んでいたのです。

◆ 世界から注目される黒ボク土地帯
2014年に韓国で開催された「世界土壌科学会議」(6/8〜13)では日本の黒ボク土が再び注目され、その巡検は日本で行われ嬬恋のキャベツ畑地域の露頭も見ています。世界でも希な黒ボクの露頭と火山灰を降らせた浅間山の地形はまさに世界の貴重な地質、大地だったはずです。
土壌のでき方は大きく2通りあって、ひとつは岩石が自然風化してできる形態で、数万年単位の時間を要する一方、もう一つの火山灰が風化してできる形態は、数千年単位の短い時間で形成される特徴がある、とされている。 不毛な火山灰土壌を耕作適地の高原野菜地帯に変えた浅間高原の農業は、火山と大地と人がその恩恵と畏敬の念を織り交ぜながら共存する地帯になっている。

※本文は「農業と環境」(独立行政法人農業環境技術研究所刊)、HP「フードウォッチジャパン」等を参照しました。 黒ぼくの分布図は「農業と環境」よりお借りしました。