ブナ(橅)の林に行く

嬬恋のブナの森





嬬恋ではブナの木を見たことが無いという人がけっこう多い。でも広い嬬恋にもブナの自生地があるのだが、その殆どは四阿山系に分布している。おそらくブナが酸性土壌の浅間山白根山系と相性が良くないからなのかも知れない。
先日、村の文化財調査員をしていた故人の遺品の中に「江戸時代から有名なブナの大木があり、現在まで地名になっている」という記録を目にした。江戸時代から有名なブナの巨木。探しに行くとほどなく大木(巨木)は見つかった。造林された唐松林の中に残されていた。一帯が伐採されずに残ったのはやしろ神が祀られていたからかもしれない。江戸時代、信州と頻繁に往来がされていたとき、長い峠を越えて集落の煙が見えるここで休憩する人々の気持ちや呟きを聞いてきた大木の、その命の時間には及ばないが、また時を下ってひとり自分も安堵の声を聴いてもらった。この辺りを江戸の時代から「ブナの地」と呼ばれていたということか。大木は少なくとも250年以上は生きていて、周囲にも100年以上の仲間が育ち小さな森を造っていた。
今、ブナは「森の女王」と呼ばれ、豊かな生態系を作ることから環境に優れた木として親しまれている。ブナ自体の成長も時間の流れが大河の如くゆったりで、花を付けるまでにおよそ50年かかり、さらに種子が結実すにはさらに30年かかるというから約80年かけてやっと成人になるのだと言われる。その種子も6年前後に一度しかつかないという、何とも雄大、悠久の時を刻むふしぎな樹で、そのブナ林に立つと人の小ささ短さを感じ、そして誰もがここでは癒される。

※付近には駐車場が無いので歩いて入ります。