「戦争を知らない子供たち」世代だけれども。

友の書を読む

還暦を境に新しい生き方に充実を目指す友達が出版した2作目、「秋水の夏」をゆっくり読んだ。
戦争を題材にしたわりに、処女作ほどの血生臭さが無いし、銃撃戦も出てこないけれど、追い詰められて狂気化する特務隊の緊迫感が戦争の中にいることをとてもよく現わし、描かれている。それ以上に、死を覚悟しながらもなお、人間として冷静で頑なな理性が幾度となく衝突しながら、特攻という大きな波に押し流されていく・・・。淡い恋心の挿入もさることながら、立派に最期を迎えたいという主人公の青年士官に、読んでいる自分の気持ちが静かに染まっていき、幾度となく文字が淡く霞む。 戦後、多くを語らづに来た青年士官は人生の佳境を迎えてようやく、あの時以来の訓練地のあった横浜の地に立ち、そして言う。「私たちが特攻と言う強制をされずにこうして生きてこられたこと、・・・あの〈秋水〉とともに駆け抜けた僅か1年の夏だったが、・・・隊員の一人ひとりが生きるという本当の意味を大尉から教えられたのだ、ということをどうしても伝えたかった。」「大尉の真の姿を伝えることこそ、生かされた私自身のやらねばならない使命なのだと思った。」と大尉の妹である妻に語るのだった。
背景の歴史考証がしっかりしていて、実際に海軍で開発されたロケット戦闘機「秋水」の話を題材にした着眼点も良かった。アマゾンなどの書評でもドラマ化を望む声が多い。自分もそう思いながら読んだ爽やかな一冊。友人の人生の琴線に触れる渾身の一冊を手にした気がした。