雪に閉じ込められて読んだ本

友人が出版した「翳りの城」を読んで。

人生、半世紀を過ぎたころ漠然と定年後に備えて画策することも多い。趣味や特技等に自覚的になる年齢だ。広告代理店の友人は「一気に小説を書いたら、学研の文学賞を貰えて、おかげでリストラされなくて済みそうだよ」と10年ほど前に言っていたのを思い出した。それから約10年。処女作「翳りの城」を出版したと案内が届き嬉しかった。そして読んでみた。
およそ信じられぬほど残虐な復讐、いや地獄を見た者が鬼となって血みどろの殺戮シーンはこれでもか、これでもかと前半に登場するので、少々グロテスクでもあり辟易するが、彼にはこんな猟奇趣味があったのかと少し驚く。ところが中盤、ストーリーは復讐する者の心の翳りのうちを、異国の庵寿と言う人の過去を語らせるところから急展開する。巧みな展開はやがて、人間であることを捨て、神を信じることも棄てながら血で血を洗う抗争を生き貫いたのちに、愚かな人の心とはなんであるのかを神の向こう側に結んで見せる。愚かさを素直に受け入れて初めて神の影を見るのか。そのストーリーには一気に読ませる面白さがあった。
最近、次作のために時間を惜しんで執筆中だと彼からメールが届いた。
自分達はこれからが本当に人生を活きるということなのだと思った。