嬬戀村その農業の原点とは

☆  忘れないために
あの震災からまもなく2年。風化を綴る記事も目につくようになった。
一方で忘れないために記録を残したり、イベントや、街づくり、モニュメント等も作られて未来に繋がる想いが形になりつつある気がする。
わが農村嬬戀村が忘れてはならない時代に昭和初期がある。
当時の村長の弟、戸部二郎氏の記録の中に、藤岡高等学校の田島富穂先生が作った歌を見つけることができた。長い歌だけれど掲載したい。なお、田島先生のご活躍は全く手がかりもないため、読者にご教示いただければ嬉しく思います。

  新調八木節  「馬鈴薯村長 戸部彪平」
          富岡高等学校教諭 田島 富穂作

   さあさ一座の皆さん方よ   浅間の山の煙の山よ
   山の麓の嬬戀村は      標高八百群馬の尾根よ
   火山灰土の高冷地帯     疲弊貧乏の貧弱村で
   冷害凶作幾年つづき     喧嘩口論飲酒にすさむ
   村を興して郷土を富ます   人はなきやと待望久し
   野辺を流るゝ吾妻川の    清き流れの田代の里に
   生まれ出でたる彪平殿は   資性豪胆情にあつく
   慈母と厳父の訓育受けて   心雄々しく成人なされ
   近衛連隊入営いたす     ヒイヒヤラ ヒイヒヤラ
   時に日露の風雲しげく    遂に開戦出征いたし
   倉地隊長の従卒勤め     弾丸をくぐって奮戦つづく
   時は八月遼陽望み      あわれ隊長戦死をなされ
   心泣くゝゝ遺骸を守り    遺品をまとめて家族に送る
   由来戦争悲惨なものよ    彼の受けたる難行苦行
   こゝにつかみし不動の自覚  捨てた命の更生めざし
   帰国復員農事にはげむ    雪にうもれて春尚寒く
   夏の短き浅間の村は
        働けど働けどなお我がくらし
           楽にならざり じっと手を見る
   歌の如くに楽にはなら    土の生活百姓ぐらし
   当時欧州大戦ありて     世界恐慌不況の最中
   村の改革心に抱き      胸に渦巻く思いを秘めて
   龍はしばらく地中にひそむ  年は四十一組頭勤め
   四十四歳区長となりて    以来連続村会議員
   昭和三年村会一致      遂に推されて村長となる
                    ヒイヒヤラ ヒイヒヤラ
   由来嬬戀馬鈴薯産し     東京送りの澱粉造り
   音に聞こえし全国一の    有望地帯と言われていたが
   時に明治も二十の年よ    にくや疫病伝染いたし
   無残収穫皆無となりて    遂に全滅中止の歴史
   こゝに気づきし彪平殿は   苦心斡旋連絡はかり
   昭和元年田代の里に     採種原種圃場事業を始め
   群馬八号の新種を入れ    県と連絡試作をいたす
   彼の立てたる計画こそは   村を富まして郷土を興す
   五年連続不朽の事業     米の代用馬鈴薯作り
   実に年間五万俵めざす    次の計画白菜作り
   現金収入の道をば開き    萱を使って農閑利用
   包装材料の俵を製す     馬をふやして厩肥を作り
   堆肥施し増産はかる     さらに運賃軽減すべく
   道を開いて交通興す     爾来計画実現めざし
   日夜血の出る辛苦は続く   ヒイヒヤラ ヒイヒヤラ
   部落座談の会をば開き    共同出荷の利点を説いて
   統制出荷をやってもみたが  販路ひらけず滞荷はつづく
   時に海外長所を認め     輸出馬鈴薯顧客はふえて
   需要増大注文多く      更に戦時の食糧不足
   果たす代用重要食糧     嬬戀馬鈴薯評判高く
   苦節十年成果はみのる    更に白菜栽培いたし
   夏の最中の大阪送り     高原野菜の声価を取りて
   前途有望増産したが     輸送運搬意の如ならず
   苦心惨憺トラック利用    車連ねて上田に送り
   遂に窮境打開いたす     ヒイヒヤラ ヒイヒヤラ
   由来嬬戀交通不便      道路工事が急務であると
   立たる計画五箇年事業    四通八達新道作る
   わけて難所は鳥井の峠    知事を動かし県会説いて
   苦心開通凱歌はあがる    自費で求めしハイヤー入れて
   旅客輸送に赤字はつづく   遂に置かれた省営バスは
   人や貨物の輸送をいたし   こゝに開けし無限の宝庫
   黄金花咲く嬬戀村よ     彼の歩むだ真実一路
   神を敬い信心あつく     人を愛して交友ひろし
   功は知られて表彰数多    惜しや六十五急逝いたす
   火山灰土の寒村興し     日本嬬戀築きし勲
   永久にともらむ不滅の灯   永久にともらむ不滅の灯
                   ヒイヒヤラ ヒイヒヤラ
                       完